Matthew Herbert

photo:タナカヒデユキ
Radio Boy、Herbert、Doctor Rockitといった名義を使い分け、常に実験性とポップ性を両立させるアーティスト。これまでに!K7やPhonoからリリースする他、ビョークのアルバム『ヴェスパタイン』('01)への参加などプロデュースやリミックス・ワークも多数。自身でも3つのレーベルを主宰する。4月にはモロコのロイシーン・マーフィーをフィートしたアルバム『Ruby Blue』を発表する。

ROISIN MURPHY Produced by
MATTHEW HERBERT
『Ruby Blue』
(ACCIDENTAL / HOSTESS)
4/23発売 2,500円
今は、そのコーヒー豆自体がどこで栽培されたものなのかってことに興味があるんだ。
資本主義の行き過ぎは、音楽や芸術といったクリエイティブな事象すらも消費物へと変容させている。物質主義と消費主義。マシュー・ハーバートはこの前世紀を象徴する流れに反抗する。レディオ・ボーイ、ハーバート、ドクター・ロキットといった名義をコンセプトやモチーフに応じて使い分け、ハウス、テクノ、エレクトロニカ、ジャズ、果てには20人編成にも及ぶビッグ・バンドを率いるマシュー・ハーバート・ビッグ・バンドまでと縦横無尽に音楽を創出するアーティストだ。
ビョークの『ヴェスパタイン』への参加やさまざまなアーティストのリミックスも手掛け、その才はレディオ・ヘッドのトム・ヨークを始め、日本でもくるり、コーネリアス、UA 、エゴ・ラッピンらが賛美を惜しまないことからも伺えるだろう。 そのスタンスはかなりラディカルかつ政治的で、例えばレディオ・ボーイ名義でのライブ・パフォーマンスにおいては、マクドナルドやギャップの紙袋を破る、テレビを叩き壊す、などして消費社会やグローバリズムに異を唱えたこともあるくらいだ。しかもただ破壊するだけでなく、それらの発する音をサンプリングし、楽曲を構築、フロアを踊らせてしまうのだから、こりゃとことん賛美したい。 00年には、自身で主宰・運営・管理まで手掛ける3つのレーベルACCIDENTAL、LIFELIKE、SOUNDSLIKEを興し、インディペンデントという姿勢を貫いているのも重要な点だろう。
去る1月22日に京都メトロでDJとして出演した翌日、彼に話を聞いた。ひとつひとつの質問にしっかりと答えてくれる彼は、クレバーな反抗者特有の匂いがした。ちなみに、DJプレイは、URやパンクを思い起こさせる程に攻撃的だった、というのは乱暴な言い方だろうか、しかもそこでは昂揚とダンスと笑顔もが入り交じっていたのだから、最高だ。
「アフガニスタン」、「アフリカ」、「アゲインスト・アメリカ」というヴォイス・サンプリングから始まった昨日のDJプレイからお聞きしたいのですが。
ブッシュ米大統領の「悪の枢軸」発言の演説をサンプリングした、ある映画のサントラのものを使ったんだ。今の世相を表すものとして最初にかけさせてもらった。自分自身、反ブッシュ政権だしね。
踊りながら感じたことなのですが、こんなにまで攻撃的でラディカルなダンス・ミュージックがあるのか、と唸る程でした。
音楽を作り始めた頃はナイーブな部分もあって大人しい感じから入ったけど、今はそのナイーブさも取り除けたからかな。今の世の中がどれだけ危ない状況かっていう、その怒りが表に出てきてたんだろうね。ここは京都だけど、京都議定書も重要なものだからね。
その怒りの矛先は何に向けられているのですか?
僕の住んでいるイギリスの生活に対してもそうだけど、特に今、世の中を支配している巨大企業だね。例えばこの前のフィリピン沖の津波にしても、水の供給源はそういった企業側に管理されていたっていうのもおかしい話だ。
そういったようにラディカルであるにも関わらず、実際、フロアは笑顔で溢れていました。純粋に、快楽的でもあるのです。これは、メッセージが伝わらないままダンス・ミュージックとして機能し、成立している、という見方もできると思います。オーディエンスに自分のプレイをこのように捉えられたい、という希望はありますか?
そこまで自分の主張したいことを明確化することも必要無いし、聴き手がどういうふうに音楽を捉えるかを支配したくはないんだ。自分の意図に気付いてもらえれば万事OKだけど、そうでなくてもいい。
最近、"食"をテーマにしたプロジェクトを立ち上げたと聞きました。なぜ"食"をクローズアップしたのですか? そのきっかけから教えてください。
ツアーとかで、いろいろな国に行くようになって、そこで食事する機会も増えてきて。その食事の裏には、その場所を物語っている部分があるなって思ったんだ。レディオ・ボーイでは、マクドナルドやスターバックスのものを潰していたけど、今は、そのコーヒー豆自体がどこで栽培されたものなのかとか、農家に実際支払われている賃金はいくらなのかとか、そういうことに興味があるんだ。例えばマクドナルドに行かずに、こういうお店(インタビューを行った京都北山のサンシャイン・カフェはオーガニック・フードを出している)に行くことひとつをとってもその人を物語っているわけだから。
それは新しい名義となるのですか?
いや、マシュー・ハーバート名義で夏くらいに出すよ。
食べ物自体からもサンプリングしてるのですか?
コーヒー豆の音もしたし、30万羽くらいいる鶏小屋でもしたよ。それを聴いて鶏の鳴き声って気付かないかもしれないけど、誰もしたことのないような手法で音作りをして、聴き手が聴いたことのないような音を使ってその人の意識の違う部分を引き出すことは重要なんだ。DJにしても同じで、新しい表現とか方法を隠しもっているよ。
ハウス、テクノ、エレクトロニカ、ジャズのビッグ・バンド。例えばあなたの音楽を称するならキーワードにはこういうジャンルが挙げられると思います。そのように広範囲な音楽性も特徴的だと思うのですが、それ以上にあなたの音楽ではヘッド・ミュージックとボディ・ミュージックすらも交錯しているように感じます。あなたはこの両者をどう捉えていますか?
僕が音を作る上で大切にするのがメロディとイノベーションの二点なんだ。メロディは、遊び心を残しつつも感情的で魂に訴えかけられるような部分。イノベーションは、誰もが聴いたことのない斬新な試みを用いるという部分。そのふたつを融合していくんだ。バランスをとりながらね。
レディオ・ボーイ名義で直接的に掲げている「反グローバリズム」を自身の言葉で簡潔に説明してください。
今の世の中は消費社会で、マイクロソフトやギャップ、ナイキのように国家よりも権力を持っている企業もある。そういう企業が自分の国の人を使わずに、賃金に低いインドや中国などの人を使って生産している。結局、そうすることで自分の国では働き口が減っていくのにね。
そういえば、以前スターバックスの入口の目の前で有機栽培のコーヒー豆を無料で配付する、というデモンストレーションもありました。
そこでコーヒーを飲んでいる人は、もっと気付くべきなんだ。もっと地域とかコミュニティに基づいて成り立っているものが必要なんだ。
仮に理想郷とすべき世界があったとするなら、その世界で"この規律さえあれば成り立つ"というものは何だと思いますか?
最も重要なことは、地球で暮らす以上、すべて恵みは地球からもらっているということを自覚すること。次に、平等性。差別のない社会で、富の再分配にも意味がある。だってビル・ゲイツはアフリカの半分以上の富を独占している、もっとバランスのとれた状況が必要だ。
ここ最近で共感するアーティストはいますか? 音楽に限らず教えてください。
レディオ・ヘッドやビョーク、マシュー・バーニー、ジェイミー・リデルなんかの作品には共感するね。
マシュー・バーニー! 彼は素晴らしいアーティストですよね。
彼は、"権力対個人"という構図でそれぞれの作品を撮っているのがいいね。今は捕鯨をテーマにした作品を撮ってるみたいだよ。
"インディペンデント"であり続けることの意義、美学を教えてください。
経済的に不安定なのがスリルがあって好きなんだ(笑)。それに、自分の作品に対して自由だろ? 今までの作品にしても自分が全部権限を持っているから、例えば以前の曲をサントラで使いたいって話があったら、実際自分が脚本を読んで気に入ったら使ってもらうし、気に入らなかったら断れる。自分の作品に対して所有権があるのは力強いよ。一音楽家としてはそういう意味ではやっていける。
でも、"自由"を有意義に使うことは難しいんだ。例えば小さいレーベルならラディカルなことをしやすいけど、実際ギャラが払えなかったり、著作権をきっちり管理せずに不用意に渡し過ぎたり、そうなると結局大企業と変わらないことになってしまうからね。そこのバランスは大事だよ。どれだけ価値のある使い方ができるかが大切なんだ。
インタビューでは触れていないが、彼の新作が4月下旬にリリースされる。UKポップ界を席巻するモロコのヴィーヴァ、ロイシーン・マーフィーをプロデュースしたそうだ。ロイシーンのクールで艶っぽいヴォーカルが彼のポップスのふりをしたノイズでアヴァンギャルドなサウンドに見事に調和している。このコンビがポップ・フィールドでも話題騒然となるだろうということは、なんと大胆不敵で楽しいことだろう。
彼のオフィシャル・サイトのトップ・ページでは「Cost of the War in Iraq」という文字の下で、今もなお数字が増え続けている。